弥山凌ハーフロックタイム

〜凌の気ままな日常〜

ウイスキーをハーフロックで グラスにウイスキーと水を半々に注ぐ 度数も下がって程よく酔っ払う そんな気分で… いくつになっても夢追い人、演者 弥山凌(ミヤマリョウ)の、取り止めもない、よもやま話を今夜も聞いてもらいましょう。

おはようから、おやすみまで。

ボクシング・ヘレナ 映画ポップコーンより

 

Episode 030
今日は,お疲れモードでありんす
いつもお疲れ様でございますが、
イデアが思い浮かばない
そんな時は、、、

 

不定期恋愛小説「K・陽子」vol.4

前回までのあらすじ;
恋愛経験豊富な一の瀬が経営するBARに友人渡瀬の紹介で陽子が現れる。一の瀬の舞台公演のチケットを買う目的だったのだが、何故か二人で映画を見に行く流れになる。映画鑑賞の日がやって来た、初めてのデート、、

(vol.3までは、下記URLに)


「どんな話の映画?」
「題は、ボクシングヘレナ。見ればわかるよ。でも、ボクシングの映画じゃ無いのは確か」
「そうなんだ。デニーロの、ほら昔やった映画。ボクシングの話だったよね。体重をかなり落としたって聞いた。リアリティーの追求っていうか。憧れる。日本の役者さんはどうなのかな。オレ、いつか、あの映画の世界で生きてみたいって思う。映画見てると無性に苛立つんだ。何でオレ、ここにいるんだろうって。どうして画面の中にいないんだって。じっとしていられなくなる。ウワーって、叫びたくなる。変でしょう、オレ」
陽子は、何も答えなかった。それでよかった。月並みなセリフを突き返されたら、リアクションに困っていただろう。

新京極で三条通りを左に曲がる。三条から四条に出るまでの間に映画館が六軒もある。ロキシー、松竹、ピカデリー、弥生座1、2、それにあと一つ。通りを少し離れた五軒を加えると十一軒。映画館がデートの為に存在するなら、カップルにとっては贅沢な話だ。いつだったか、オールナイトをはしごしたことがあった。一本めの映画が恐怖もので後味が悪く、もう一本見ることにした。流石に家に着いたのは、明け方近くになっていた。Fと一緒にいた頃だ。若かった。

目指す映画館に着いて入場券を買おうとしたら、すでに陽子は、前売り券を用意していた。僕は、彼女の厚意に甘えることにした。初めての経験だった。女の子とデートする時、いつも映画代を払わされた。誰も自分から出そうとはしなかった。
陽子には、金持ちの匂いがした。金持ちという言い方は俗っぽいが、まさにそれだった。或いは、ハイソサエティ。そういう表現しか持ち合わせていない僕の想像力は貧困すぎた。

映画館の中は、予想通り空いていた。二十人も入ってなかった。真ん中の7列目に座った。映画鑑賞にとっては、最適な場所だ。邪魔な物体が見当たらない。
映画の内容は、初めてのデートで見るにはハードなものだった。男は、愛する女を無理矢理拉致して家に連れ帰り、彼女の身体から手足を切り離し椅子に縛り付ける。そして、毎日自分の部屋の中でペットに餌を与えるかのように食事を与える。男にとって幸せの意味は何なのか。餌を与えるだけの行為、それで本当に幸せなのか。僕には、理解できないテーマだった。

映画が終わって、僕は時間がないことに気づいた。
外に出てすぐに陽子に別れを告げた。
「オレ、用があるんだ。バンドの練習。今度一緒に食事するから、じゃあ」
陽子の答えも聞かずに走り出した。練習は、とっくに始まっていた。バンド仲間は、僕を非難するような連中ではなかった。いつもの事だ。状況を説明する必要すらなかった。演劇にも参加していたが、バンドもやっていた。ヴォーカルと作詞を担当していた。才能の有る無しに関わらず、行動はローカル芸能人だった。陽子との初めてのデートが、たまたまバンドの練習日と重なった。
最初に言えばよかったのだが、何故か言いそびれた。いつもの優柔不断な性格が成せる業なのか。
僕にとってさほど重要でない事が、陽子にとっては大事件だった。映画だけを見てデートを終わらせるような男は、陽子の人生の中で一人もいなかった。彼女は、小さい頃から身につけていたプライドを傷つけられた。ほんの数日前に知り合った男に彼女の人格を無視された。昔数年付き合った男に振られた事があったが、あれは彼女自身にも問題があった。でも、今日は違う。自分からは何の過ちも犯していない。


僕は、その夜陽子に電話を掛けた。僕の予想をはるかに超えて、陽子は完全に怒っていた。
「なあに、今日は。夕御飯をお母さんに断って出てきたのに、お母さんにどうしたのって聞かれたわよ。一の瀬さんって、どんな神経してるの。陽子、二人で行くお店まで決めてあったのに。酷過ぎない。次は、必ず美味しいものを陽子に食べさせるんですよ。約束を守らないとママに言いつけますよ」
子供を諭すような口調だった。悪い気はしなかった。二人の間に何かが生まれた。恋愛感情。はじまりは、簡単なものだった。

「ねぇ、一の瀬さん。仕事朝までやっているんでしょう。罰として、明日から毎朝陽子におはようコールをするんですよ。わかりましたか」
もちろん否とは言えなかった。ノンと言う理由も見当たらなかった。彼女は、僕の予定より早く落ちてきた。こらからは彼女の命令に従う振りをするだけだ。賢い男は、奴隷を演じることを厭わない。毎朝のモーニングコールは欠かさず続いた。

少しして陽子からもう一つの要求があった。グッドナイトコールだった。彼女の存在が、僕にとってどれ程大切かを毎晩11時きっかりにマーヴェラスな言葉に乗せて伝えることになった。

「たとえ神様が僕に命の終わりを告げたとしても、僕が君を愛おしく思う気持ちは、永遠に果てることはない。だから、安心してお休み」

「いつか君と一緒にオーロラを見に行きたい。想像を絶するような寒い思いをして、何日か待った後でオーロラに出会う。その時僕は、テントから抜け出して大声で叫ぶ。『アイシテル』って。もちろん君のことを」

「ソファに二人転がってテレビを見ている。人気ドラマの最終回を放映してる。やがて、ヒロインは病気で死ぬ。君の頬に涙が伝わったら、優しく微笑んで僕が拭ってあげる」

「よく聞いて欲しい。この世に愛と呼べるものはいくらでもある。でも、僕が君に捧げる愛は、真実そのものなんだ」

「今度生まれ変わったら、二人ともウミガメになろう。誰も見たことのない深海の風景や生き物を眺めながらゆっくりと泳ごう。でも、オレってカナヅチなんだ。まあいいか」

僕のセリフに彼女がオッケーを出す。それが、陽子へのグッドナイトコールだった。

 

✴この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

不定期恋愛小説「K・陽子」vol.1

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不定期恋愛小説「K・陽子」vol.2

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不定期恋愛小説「K・陽子」vol.3

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